ラテン・リズム講座 Vol.1 ぼくの気分は「ラン・カン・カン」
by おぐり まさゆき 1983.10.10
ーはじめにー
実はかなり以前から、ラテン・アメリカ音楽のリズムについて書いてみたいと思っていた。 今回はからずも、本誌上でそれが実現することになったが、そのとたんに、読者層をどのあたりでとらえるかという問題で、すっかり頭を悩ませてしまった。
つまり、あまりに初心者向けばかりではつまらない。かといって専門的なことばかり書いても、読んでもらえない。第一に筆者にはそれだけの技量がない。 打楽器の奏法についても書いてみたいが、それだけで終ってしまってもつまらない。といった具合である。
その結果、まずいろいろなものを、ラテン・リズムを中心にクロスオーバーさせてみようと考えた。
そこでまず最初に、ラテンリズムの魅力という問題から出発して、次にそのリズムを表現する打楽器群について触れ、さらに打楽器のルーツを求めて、アフリカまで旅をしたい。
最後に総まとめという意味で、現代のラテン・アメリカ音楽である「サルサ」の世界へと話題を統合させていきたい。この欲張った内容がどの程度まで実現できるか。かなり不安はあるが、そこはそれ、ラテン的楽天気分をモットーに書き進んでみようと思う。 それではまずは、ラテン・リズムの魅力から旅の始まりとしょう。
混血美人の不思議な魅力
ラテン・アメリカ音楽のリズム程、言葉に表せない不思議な魅力を持っているものを、ぼくは知らない。その魅力を一口で言うとすれば、それは混血の美しさにあるといえよう。
例えばサルサの歌詞の中に、よく「ムラータ」という文句が出て来る。 これは黒人と白人(主としてスペイン人)との混血による娘のことを言っている。この「ムラータ」には実に魅力的な美人が多いという。実際ラテン・リズムは、この混血美人「ムラータ」に通じるものを持っているのである。
そこで実例として、ラテン・リズムの宝庫といわれるキューバを見てみよう。 詳しくは「ラテンリズムを求めて」で取り上げるが、キューバではスペイン音楽とアフリカ音楽が混血を生じ,魅力ある音楽が生まれている。
リズムとして取り上げると、まずスペイン系としては、ボレーロ、ハバネラ、ダンソン等。 アフリカ系としては、ソン・モントゥーノ、コンガ,ワワンコ等がそれである。さらに、はっきり両者の混血が全面にでているリズムとして、グアラーチャ、マンボ,チャチャチャ等を上げることができる。これらの音楽、そのリズムを聞くとき、ぼくはそこにはっきりと「ムラータ」の姿を認めるのである。
以上、今回はラテン・リズムの魅力は、混血の魅力にあることを強調した。次回は、なぜこの混血が生じたかに解れながら、カリブ海各地の代表的なラテンリズムを訪ねる旅に出てみたいと思う。
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