La Tierra de Owarai その1 -Lelolai Vol.2
by トニー永田 1984.4.1
何故かレロライ倶楽部の会報に、 「お笑い」の事を書くはめになった。書いている本人がまだ半信半疑なので、読む方は何がなんだか分らないといったところだろうと思う。 実際サルサとお笑いとでは、直接的な関連性など全くないので、サルサ愛好家は、眼を点にせず御笑読下さるようお願いします。 もうタイトルからして、ただ単にスペイン語と日本語を繋げただけの(急に円生になり)「実にどうも、けしからんことで・・・。」
さて、この原稿は暮れに書いているので、ついシミジミと、83年の回顧と84年の展望ということになるわけですが・・・。
最初から愚痴になってしまうが、 今年に限らずここ数年、世間の盛りあがりとは裏腹に、腹の底から笑えるものがなくなりつつあると思う。
本心から言えば、ハッキリ無いと言い切ってしまいたい所なのだが。 私としては、これでも結構無理して笑っているのだ。
この原因については機会を改めるとして、そのような樹も水もない不毛の砂漠で、オアシスとは言わない、せめてコップ一枚の水を求めるような、かなり悲愴な気持ちでお笑いを見ているのです。
この一年、やはりビートたけしは強かったと思う。常に自分の位置を的確に把握しているのがその要因だろう。
新人としては物真似(松田優作、酔っぱらい等)の竹中ナオト(本職は青年座の俳優)が印象に残る。特に、顔は笑いながら「何だ、バカヤロウ!」と怒るネタには笑った。不条理の味がある。これをやってみたくて、鏡の前で何度か試みたが、実に難しい。この人は10年程前、あのねのねが司会の「飛び出せ、物真似大作戦」 (フジTV)がまだ、歌謡番組の中の1コーナーだった時に、シロウトで出て、抜群に上手ったのを憶えている。ネタ数を増やすのが今後の課題だろう。
「銀座ナウ」出身で、現在は欽ちゃんの浅井企画で売り出し中の小堺一機も期待できる。何よりも明るい芸風が魅力だ。
新人以外では、コミック・バンドのビー・ジー・フォーが良い。演奏、歌、コーラス共最高で、実際にはプロのバンドがお笑いをやるという形に近い。
寄席芸特有のドロ臭さが希薄で洗練されているのもこの印象を強める。一時期たけしも挑戦していたが、既成のネタばかりでつまらなかった。
やはりコミック・バンドは音楽を識っている人がやらなくては面白くない。
ドンキー・カルテット解散以後、この分野は際だつたグループがいない。もっと活躍して欲しい人達だ。尚、このグループは、あのキャンディーズも出ていた(西脇さん泣かないでね。)テレビ朝日の名作「見ごろ、食べごろ、笑いごろ」 に、 忙しバンドという名前で出演していたのを記憶している方も多いだろう。
レロライ倶楽部も激しく応援する西川まかせなさい”のりおは、フラワーダンシングチームで今年も笑わせてくれた。「自分は一生そえものでいくつぶしの芸に徹する。」という姿勢が素晴しい。
レオナルド熊が脚光を浴びたのも、忘れ難い事のひとつだ。
落語界は、談志師匠の落語協会脱退で揺れたが、それを噺家たちが現実の自分の問題として受けとめていないのが残念だ。今の落語が面白くないのも、その辺りに原因があると思うのだが。そんな中で、真打ちに昇進した三遊亭小遊三は光っていた。裏芸の野球選手の形態模写で以前から知られていたが、新作に色眼を使わず、ちゃんとした古典を演じて面白いというのが、今や貴重だ。 圓蔵(元・円鏡)さん程噺をくずさないのが、同じタイプの噺家だ。そのギャグも現代的で、間に入るガッツポーズや誇張した相槌が、絶妙の呼吸で実に可笑しい。
林家しん平も相変らず色物路線(ゴジラやウルトラマンのネタ)をつっ走っているが、面白くなってきた。 扇子の使い方が、故三平師匠に似てきたのが嬉しい。
さて印象に残った人達を駆け足で見てきた訳だが、最後に亡くなられた都家かつ江師匠に謹んで哀悼の意を捧げます。柳家三亀松、都家かつ江と続いた、待合の四畳半的粋は、もう後を継ぐ者はいないだろう。ただビートたけしの中に、かつ江師匠や三平師匠の木霊(エコー)を聞くことがある事を記しておきたい。
しかし正月も変った。私の中の正月は、紅白歌合戦にクレイジー・キャッツが出て、年が明けるとかしまし娘が唄っているいるというのが理想の正月として残っている。 鳴呼、人間老いやすく、ギャグなり難し。 ここまで読んで下さった方に、 深く感謝して一言。
「ほんと、体だけは大事にして下さい……」
おそまつ!
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