María Cervantes全集

Disc/Music Guide

María Cervantes
アフロキューバンラテン音楽界隈では有名な楽曲の一つ。
日本のラテン系ミュージシャンの間では、「マリセル」と略して呼ばれることも多い。
Descargaでもよく取り上げられるこの曲についてまとめてみました。

María Cervantes って誰?

María Cervantes。
見ての通り、女性の名前です。
1885年11月30日 Havana生まれ、1981年2月8日没、ピアニスタ、歌手、作曲家。
父親は有名なCubaの作曲家、Ignacio Cervantes。
出典:WikiPedia

楽曲としての「María Cervantes」現存するもっとも古いであろう録音はNoro Morales版

Orquesta Del Sol、熱帯Jazz楽団他で活躍されている日本が誇るラテンピアニストの大御所である森村献さん説によれば、「María Cervantes」というタイトルで呼ばれている曲は、作者ははっきりしないが、当初、「María Cervantes」という人物についてのラジオドラマのために作られ、Noro Moralesによって録音された。そのこともあってか、ほとんどの場合、作者はNoro Moralesとなっている。

現存する音源で最古のものは、以下と考えられる。

Noro Morales – His Piano And Rhythm Ansonia – SALP 1272 
A4 María Cervantes(tema-variaciones)(#1:「María Cervantes全集」再生リストの一番目。以降再生リスト内の順番を#nで示す)

His Piano And Rhythm Ansonia – SALP 1272自体は1960年リリースだが、録音は、おそらくもっと以前にされたものと考えられる。
この版では、ピアノ、ベース、Conga、bongo、Timbalesだけで演奏されていて、2-3クラーベに変わるモントゥーノ部分は存在していない。
ちなみに筆者が入手したレコードはしっかりした厚紙のジャケットには入っておらず、内袋のような質の悪い紙の袋だった。

Tito Puente、Charlie Palmieriによるオーケストラ版

これが、Tito Puente(#5)、Charlie Palmieri(#6)それぞれのオーケストラの版になると、全く別アレンジながら、いずれも2-3クラーベに変わるモントゥーノ部分が追加されており、3-2クラーベのテーマに戻る展開になっている。

Tito Puente On Broadway版

Tito Puente And His Latin Ensemble – On Broadway (#2) B2
1983年Concord PiacanteからリリースされたLatin Jazz Ensembleでの小編成版。
この曲でもっとも有名なバージョンと考えられ、Latin Real Bookにも譜面が収められている。
2-3クラーベのモントゥーノ部分でCuatro(Puertoricaño)のソロが展開されているが、Latin Real Bookでは「Guitar Solo」と表記されている。
なお、Tito Puenteがこの曲を「A Noro Morales」というタイトルで取り上げているのは、Tito PuenteがかつてNoro Morales楽団に在籍していたことから、かつてのバンドリーダに敬意を表してと考えられる。

Orquesta Del Sol版

日本最古のサルサバンドOrquesta Del Solによるもの。正規な録音は残念ながら残されていないが、かつて1982年から1985年にかけて西武百貨店池袋店納品所において行われたSalsa Party@the Loftの第二回1983年の演奏動画が残されている。

第二回 1983年10月9日日曜(Lelolai倶楽部の面々と名古屋から遠征)
出演:Orquesta Del Sol、Orquesta246
レポート:Latina 1983年12月号に掲載
全貌動画:(森村あずささんのチャネルに掲載)
 • 1983 Salsa Party @ Seibu Loft Orquest… 

筆者がこのMaría Cervantesと初めて出会ったのも、Orquesta Del SolのCrocodileでの演奏だった。
2-3クラーベでの特徴的なピアノのTumbaoから始まり、テーマに入るところですぐに3-2クラーベにひっくり返る、テーマ内でのダイナミックなホーンセクション、そして、クラーベの3でのキメから2-3クラーベのモントゥーノ部分ではホーンセクションMoñaに呼びこまれて各打楽器のSoloが展開され、再びクラーベの3でのキメを経てテーマに戻る、という非常に熱いアレンジ。
こうやって「María Cervantes全集」として数々収集してきたけれど、やはりこのバージョンが筆者にとっては一番である。

当時は、「もとにされたオリジナルバージョンがあるに違いない」と思っていた。大阪のSweet Cocoのマスタに尋ねると、「あれはCharlie Palmieriのバージョンが元でしょう」みたいなことを言われたのだが、先に紹介した通り、Charlie Palmieriのバージョンは全く別モノ。結局Del Sol版は森村さんによるオリジナルアレンジだった。この「オリジナル探し」が、「María Cervantes全集」として最終的に結実したともいえる(この曲に限らず、当時Del Solの演奏で知った楽曲のオリジナル探求もSalsaのレコードを買い漁る大きな動機の一つだった)。

余談だが、「María Cervantes全集」に収まる種々バージョンのリリーズ情報収集が最も進んだのは、Internetが使えるようになり、AmazonとDescarga.comのデータベースに出会ってからだった。
残念ながらすでにサイトは閉鎖されてしまっているDescarga.comには膨大なデータがあった。Descarga.comのデータベースのPower Search結果をプリントアウトしたものを元に、米AmazonサイトやDescarga.comに発注したり、中古盤屋や輸入盤屋で丹念に探していった。近年は、Youtubeなどでリリースされているもの以外のいろんなアーティストによるライブ版にも出会うことができている。

異色なFrankie Dante版

そんなDescarga.comでのPower Searchで見つけ、相当に時間が経過したのちに、米国サイトから直接購入したのがFrankie Dante版のCD(Descarga.comだったのか、米Amazonだったのか記憶は定かではないが、発注から到着までに数か月かかった)。

Flamboyan All Star Band Starring Frankie “Be-Bop” Dante (8,1977 Cotique) (#9)
多くのミュージシャンが取り上げているが、モントゥーノ部分が3-2クラーベである版は、唯一Frankie Dante版だけのようである。
ベースのみのIntroから「Ay María, Peroque Curba(?)」というセリフに続いてディストーションギターの単音弾きフレーズがあり、キメのあと、Fluteとピアノによるテーマ。メジャーに転調するBメロがベースで打楽器のTumbaoの上で奏でられ、3-2クラーベのままキメからモントゥーノ、TpソロからTresのTumbaoがクローズアップされていき、さらにOrestes VilatoによるTimbalesソロ、そしてテーマに戻ってFade Outする。

このFrankie Danteという人、実はあまり情報を見つけられていないのだが、1970年代にCotiqueで数枚のアルバムを出しているカンタンテ。

有名アーティストのカバーバージョンCharlie Palmieri, Richie Ray, 松岡直也, Johnny Pacheco, Cachao

最初にピアノ奏者のNoro Moralesが録音しているということもあってか、ピアノ奏者リーダでのカバーが多く残されている。

先にも紹介したCharlie PalmieriはThe Montuno Sessions – Live From Studio ‘A’(#7)

Richie Ray:Ricardo Ray & Bobby Cruz – 40 Aniversario-En Vivo (CD-2-13)(#8)

松岡直也:Now The Time(12)(#26)
3拍子のピアノソロで録音されたもの。曲名は「A Noro Morales」。

なお、TVで放送されたものだが、寺井尚子(Violin)とのDuo版がある。(#16)

Johnny Pacheco – Latin Piper(A3 1968 Fania) (#30)
正直あまり面白いバージョンとは思えなかった。Latin Jazzとも呼びたくない8ビートな演奏。後半に一応ピアノのTumbaoが繰り返されるモントゥーノ部分が付いている。

Israel Lopez “Cachao” – Como mi(su) ritmo no hay dos(1993)
VHSビデオテープで入手したもの。リハなのか録音なのかスタジオでのNestor TorresのFluteとPaquito D’RiveraのClarinetのバッハ風Duoから始まり、ホールでの風景に切り替わったあたりからGuaguancoに移っている。Video本編ではこの曲の後に全く新たにモントゥーノ部分がNelson GonzalesのTresも軽快に付け足されている(あるいは別曲なのか?)。

その他のバージョン Frank Ferrer, 他

Frank Ferrer  – Banda’llá(7, 1989) (#12)
Cuatroがテーマを美しく奏でるバージョン。リーダのFrank Ferrerは歌手でありプロデューサー。

The Latin-Jazz Coalition – Trombón con Sazón(9, 2000) (#13)
これもDescarga.comの検索結果からたどり着き、多分海外サイトから購入したもの。リーダはTb奏者のDemetrios Kastaris。このバージョンではモントゥーノ部分がCoro-Cantaになっており、カンタンテがSoneoで各打楽器奏者を紹介し、それぞれのソロパートが入れられている。
アルバムでこの1曲前には「Todos Vuelven」も入っている。

Nestor Torres – Nouveau Latino(11 Maria Cervantes (Suite), 2008) (#10)
CachaoのComo mi ritmo no hay dosにFluteで参加していたNestor TorresによるMaria Cervantes組曲。

Descargas Edwin Colón Zayas(9, 1995?) (#32)
Cuatro奏者Edwin Colón Zayasによるもの。

Luis Benjamín & His Piano Luisito Benjamín(1967 Gema A1)
ピアニストLuisito Benjamínによるもの。1967年と比較的古い録音。

Joshua Edelman – Fusión de Almas (2002 1) (#28)

MUSICA ATRACTIVA – La Primera Noche(3, 2017) (#18)
Orquesta De La Luz, Latin野郎などで80年代から日本ラテン・サルサをけん引されてきたTpの福本佳仁氏がリーダのLatin Jazzバンドによるもの。Fl、Vibを小粋に活かしたバージョン。


鈴木千恵トリオ – Here We Go(8, 2017) (#17)
バークリー卒、前出のMusica AtractivaでもVibを演奏している人気のVib奏者である鈴木千恵のリーダトリオ(変態トリオと呼ばれる)によるもの。2-3クラーベのモントゥーノもVibeで奏でられ、なかなかスリリングな展開。

深津純子 Catch a Raibow(2,2003) (#20)
Flute奏者 深津純子によるもの。

すずきあゆみ&AYUMANIA – 桜花月歌(7, 2017) (#22)
ラテンVib&Percussion奏者すずきあゆみ率いるAYUMANIAによるもの。
2-3クラーベのモントゥーノもコード進行がまた独自で美しい。
Rhodesと思われるエレピで通す津垣氏、そしてViloinで奏でられるリフからテーマへ。

小川恵理紗 – Where Have U Been?(3, 2019) (#21)
Flute奏者 小川恵理紗によるもの。特にラテンフィールドのヒトではない模様。

その他、Youtubeでは、種々のライブ映像も見つかり、素晴らしい演奏が繰り広げられている。「Maria Cervantes全集」の再生リストに挙げたもので上記で紹介できていないものも数々。
Seis Del Solar(#3 LP社プロモcongahead.com), Barcelona Big Latin Band(#14), あまり詳細がわからないがJohanny Parraによるもの(#15), 惜しくも2021年に亡くなってしまったピアニスタ野口茜さんによるライブ(#19), ブラスバンドブラックエレファンツ(#23), 野口茜さんライブにも参加していたPerc/塩のやもとひろと、p/奥山勝 b/澤田将弘というトリオでのもの(#24), 仲田美穂DESLARGA CORAZON LATINOによるもの(#25),などがある。また、全くラテン色が感じられないJazzピアノトリオやラテンピアノ教則向けの動画はリストに加えていないが、挙げていない中にも素晴らしいラテンテイストの演奏は数多く見つかる。

María Cervantes全集(Youtube再生リスト)

Youtube再生リストの「María Cervantes全集」全体はこちら。

Maria Cervantes全集

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