Salsaは、様式美の音楽である(と言ってみる)。
そもそも、Salsaがどういうものか、について明確な定義はない。本稿はだいたいこういうものというアウトラインを勝手に(裏で)唱え、さらにその中に見られる様式美を挙げてみる、という無謀かつ手前勝手な試みへのチャレンジである。
基準は?といえば、筆者がこれらを聴くと身悶えして喜ぶ、である。
当面未完の項になる見込みで、順次更新していくことにする。
Salsaのごく大まかな定義
歴史的な背景からすれば、CubaのSONの発展形を基に、JazzやCuba以外の汎カリブ・ラテンアメリカ音楽の要素を混ぜ込み、Cuba革命以降のニューヨークでプエルトリコ移民を中心に育まれたラテン音楽であり、1970年代以降に「Salsa」と呼ばれだした。その後、広くラテンアメリカ諸国にもラティーノ達のアイデンティティそして受け入れられ発展していったもの、と言えそうだ。
。。。と、この定義は、以下に続く「様式美」にはほとんど関係なさそうではある。
様式美的特徴
筆者にとってのSalsaの様式美的な事項を以下に順不同で列挙する。用語上「なんじゃそりゃ」的な事項が多数登場するが、今後できるところはポップアップ含めて補足説明を追加する(かもしれない)。
MontunoでBongoからCampanaに持ち替えるタイミング
そもそも「Montuno」とは?
「Montuno(モントゥーノ)」とは、「山」を意味し、曲の山場とでもいう部分である。
Salsaやその母体となったSonでは、多くの場合、まずメイン歌手がテーマの唄を歌う「Largo」とも呼ばれることがあるテーマ部分があり、その後に盛り上がるべく「Montuno」が展開される。
「Montuno」の構成はいくつもバリエーションがあるが、大まかにはCoro(コーラス隊)とメイン歌手(Guíaギアとも呼ばれる)、Coroと管楽器といった掛け合いが同じコード進行で繰り返えされる形態で構成される。ホーンセクションの即興のリフを畳みかけるように繰り返す「Moña(モニャ、モーニャ、これも「山」の意味)」が加わえられることも多い。
繰り返されるコード進行、Coroの歌詞やフレーズも都度その場の即興で紡ぎ出されていくものも含めて複数種類で展開されていく。
「Montuno」に入る部分が展開される順は、大まかに
・Coroと管楽器ソロを数回繰り返したあと、Coroとメイン歌手によるGuía(Coro-Cantaと呼ばれる)に移る
・管楽器ソロが織り込まれず、Coro-Cantaだけで構成する
の二つがある。
「Montuno」に入ると、Bongo奏者は、おもむろにCampana(手持ちのカウベル)に持ち替えるが、この持ち替えるタイミングはまさに「様式美」の重要要素なのだ。
Timbales奏者は、Largoの後Montunoに移る直前の間奏などに入るところで、カスカラ(胴を叩く奏法)からContra Campana(Timbalesセットに含まれるカウベル)に移っているが、Bongo奏者は、まだ、Bongoを演奏し続けている。Coroと管楽器ソロの掛け合い時は、多くの場合、Coroおよび管楽器ソロ部分もそのままBongoの演奏が継続される。Coroと管楽器ソロは2回程度繰り返される。
その後、Coro-Cantaに移った最初のCoro(管楽器ソロが2回なら都合3回目)が終わったあたりにTimbalesによる呼び込みのFill-inがあり、最初のGuíaの頭あたりからBongo奏者は、Campanaに持ち替える。
これは、Septeto編成でのSonの王道パターンでもある。
つまりCoro-Cantaの最初のCoroは、Timbales奏者のContra CampanaとBongo、GuíaではContra CampanaとCampanaの組み合わせとなるのが王道であり、この持ち替えのところが実に美しい。
中にはCoro-Cantaに移ってからも数回分Bongo奏者がBongoを演奏し続けている例もある。
アレンジの都合もあるだろうが、Coro Cantaの最初のCoroからCampanaに移ってしまっているのは、あまり美しくない感がある(とはいえ下記に挙げた例はそれぞれ好きな曲)。
2ndo Voz(2声のハモリがおいしい)
イントロなどに続いて、まず楽曲の主題となる部分が演奏される(Largoなどと呼ばれる)。リード歌手が一人で歌う場合が一般的だが、2ndo Vozと呼ばれるハーモニー担当とともに2声で歌われる例も多く、名演が数多く残っている。特に80年代前半までのものには好例が多い印象がある。
2声の良い例:Guarare
ピアノだけになるブレイク
何のことはない、筆者の好みである。
ブレイクで他のリズム隊も停止し、ピアノだけがクローズアップされるブレイクにはゾクゾクしてしまう。ピアノにGuiroが加わっているともう最高な気分である。
ミディアムテンポの例 No Pierdo Las Esperanzas – Grupo Fascinación 1:59~
速いテンポの例
Sensaciones – Conjunto Clasico con Rafael de Jesus 1:23~、2:25~(Coroとピアノ、Tres)
ピアノとGuiroの例
Se Me Cansó El Corazón · Los Hermanos Moreno 3:14~
Decima(デシマ、10行詩)
Son MontunoのようにLargo→Montuno(Coro-Canta)という構成とは別で、Guajiraなどに見られる楽曲の形式では、Coroの間にメイン歌手が比較的長い歌を歌う形式で展開されるものがある。この場合、メイン歌手は「Decima(デシマ、10行詩)」と呼ばれる形式で即興の歌詞を歌う。Decimaのルーツはヨーロッパの吟遊詩人の模様で、中南米各地にこの形式で歌われる文化が残っているようだ。
例えばMachitoによるGuantalamera pensativa。
ところが実際に実例を探すと結構見つからないもの。例えば、Fania Allstarsによる1971年のチータ ライブ演奏曲では「Quitate Tu」が本来なら該当であってほしいところだが。探す方面が間違っているのか、あるいは前出の説がそもそも間違いなのか。。。
Quitate Tu(歌手ごとに結構繰り返し回数がばらついている。。。)
Estrellas de Faniaも形式としては、Decimaになりそうなのだが、そうはならず各歌手だいたい4回繰り返しになっている。
Boleroの中でのCha Cha Cha
ラテン歌謡の王道、Bolero。Salsa Bandの演ずるBoleroはだいたいCubaの流れを組むBoleroで、歌い上げる大サビに向かう部分などにCha Cha Chaになるものが美しい。実にゆっくりなテンポながら、ちゃんとGuiroが奏でられていたり、Timbales奏者もアバニコからCha Chaベルに移っている。
Si No Eres Tu 1:30~(en mi vida no habrá un ideal, ni habrá musa que me haga cantarの部分)
Un Amor De La Calle 0:58~/2:16~(igual que una de tantas, igual que una cualquiera, jugastes con mi vida y con mi corazonの部分)
Cha Cha Chaの中でのBolero
前項とは逆で、Cha Cha Chaの中でふっとBoleroになる部分を挟んでいるのもおいしい。
Nati y su Orquesta – De Nuevo Soy Feliz 0:13(イントロ後半), 0:27(despues de tanto tiempo solo me siento ahora tan felizの部分)など
Conjunto Libre – Decidete 0:34ごろから(quiereme asi con frenesi mi amor como yo a tiの部分)、など
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