サルサ風味物語 ゴンザレス13 #1 -Lelolai Vol.1

Lelolai Vol.1

サルサ風味物語 ゴンザレス13 #1
by H.コローン 1983.9.9

やけに暑い。9月だというのに、30度を越える気温に、俺の体はまいってしまっている。 アスファルト・ジャングルには、赤トンボは飛んでこない。ましてや鈴虫の声など聞こえてくるわけがない。異常なまでの暑さを持続させるこんな夏には、街にはいたくない。早く仕事をすませて、のんびりと海辺で過したいものだ。

エル・グラン・コンボの音を聞きながら、ピニャコラーダを飲みたい気分だ。
ぼんやりと、そんな事を考えながら、俺は飲み屋ののれんをくぐった。
「いらっしゃい。」
店の主人の声もどこかけだるい。
「ビール」
とひと声。何も他に話しかけることはない。こんな暑い夏の日の夕暮には、「ビール」の一声でコミュニケーションは成立してしまう。
霜のついたビンがカウンターの上に置かれた。
グッ! ひといきでグラスをあけてしまう。うまい。
このひと口に幸せを感じてしまうなんて、俺も小市民なのだろうか。

ふと見上げたテレビでは大韓民国のジャンボジェットが、ソ連領空で撃ち落された叫んでいた。
「ヤバイぜ!」
俺は独り言をつぶやいた。仕事がやりにくくなるじゃあないか。
世論は、ソ連を効撃するだろう。もちろん政府・マスコミは、そのお先をかつぐに決っている。
人道的見地からいって・・・などと。反ソ、反テロキャンペーンがまき起きるに決っている。急がねばならない。俺はグラスに残ったビールをひと息で飲みして席を立った。

夜風というにはほど遠い、熱すぎる空気が、かすかに動いているだけの外は、俺の体をいっきにほてらせた。
暴力は許されないといった、お題目だけでは生きていける世の中ではない。国と国、企業と企業の間には、様々な策略が張りめぐらされている世の中だ。だから俺のような人間にも仕事がまわってくるというものだ。

ゴンザレス・13。 人は俺のことをそう呼んでいる。必殺仕置人稼業、それが俺のビジネスだ。
今回のターゲットは・・・。そう、いつもアポロキャップをかぶって、体のおとろえ、はっきり言ってしまえば、脱毛症をかくしているあいつ。
「さぁ!手をつなごう!」
などと歌っているあいつだ。ターゲットとしては、あまりにもつまらない相手だが、これもビジネスだ。

プロセスは練り上っている。そう、ステージに立っているあいつをヒットするのだ。タイミングはこうだ。あいつは持ち歌の中からヒット曲を歌う。ハンド・イン・ハンド。この歌声が合図だ。
俺はあいつの帽子を一発目でうち落とす。観客の目の前でだ。あいつはあわてることだろう。
その騒ぎの中、二発目はもちろん・・・。
くだらない歌で、若者の頭をウニにしてしまうヤツを許すわけにはいかないという依頼主のことばを思い出す。

俺は仕事をやりとげた。コンサート会場は、騒然としている。 軟弱な頭の若者達は、何が起きたかも理解できず、右往左往している。
俺は仕事をやりとげた充実感と共に、ふと寒けを感じた。この騒いでいる若者が、日本の平均的な若者だとしたら・・・。まぁ俺の知ったことではない。銃をすばやくケースにしまい、現場を立ちサルサ!

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